lesson3ー4 全てを掛けて

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そっか…悠香は俺が思ってるよりずっと…強いんだろうな… 強くあろうとしてくれてるんだって、分かった。 その笑顔を胸に刻み、診察室の中に入る。 「一ヶ月振りですね、入江さん」 宮本先生が身体ごと、俺の方を向き、開口一番にそう言った。 「前回の診察、見事にすっぽかしてくれて、もういらっしゃらないかと思ってましたよ?」 「…ははっ…すみませんでした」 それについては、素直に謝るしかない。 いつ死んでもいいと思っていたから…それなら、病院に行く意味がないと思っていた。 だけど、今は…… 死にたい等、微塵も思わない。 長生きはできなくても、定められた命の期間より長く、少しでも長く…生きたい。 「…何か…心境の変化が、あったんですね?」 俺の顔をじっと見る宮本先生が、そう言った。 「分かり、ますか?」 宮本先生と会うのは、これで3回目になる。 俺の違いが分かる程の回数、会った訳じゃないのにな。 「ええ、前回とは全然違いますよ…余命宣告を受けた時も、入江さんは狼狽えることなく、落ち着いていましたが、それでも…ショックは大きかった筈です…目の奥の翳りが、今は消えています」 そんなとこまで見られてたんだ。 「今日は、再度レントゲンを取り、今後の治療について話をしましょう」 「その前に、お願いがあるんです」 そう言った俺の言葉に、デスクに向き掛けた身体を、もう一度俺に向ける。 「何でしょう?」 「俺…結婚するんです…こんな俺と、結婚したいと望んでくれる…俺がずっと、もう何年も想いを寄せた女性と……まだ、籍は入れていないので、家族とは言えないかもしれない…受付ではそう、断られましたが、彼女が俺の病を知りたいと…知った上で俺を支えたいと言ってくれたんです…彼女と一緒に、話を聴くことを、許可して下さいませんか?お願いします!」 一気に話して、宮本先生に頭を下げる。
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