lesson3ー4 全てを掛けて

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「…まだ、結婚していない内に、こんなことお聴きしていいか迷ったんですけど…でも、知りたいんです!」 宮本先生を真っ直ぐ見る悠香。 悠香の真剣な横顔を、隣で見ていた俺。 「疑問は何でもお聴き下さい。分かることは全てお答えします」 悠香にそう言った宮本先生。 次に悠香が口に出した言葉に、この空間で一番驚いたのは、俺だった。 「…あの…こ、子供は望めますかっ?」 悠香を見ていた俺の目が、これ以上ない程見開いた。 「こ、子供っ!?」 思わずデカい声で叫んでしまい、慌てて右手で自分の口を塞ぐ。 宮本先生と、悠香が俺を見る。 子供なんて……考えたこともなかった。 いや…それ以前に、俺の子を妊娠なんて、したら駄目だ! 俺は癌患者なんだし、それに……父親としての責任も取れない。 何もしてやれないし、それ以前に…悠香の先の未来の負担にしかならない。 「突然こんなこと言って、驚かせてごめんね…でもね…私、環生の子供が欲しいの」 好きな女に、自分の子供が欲しいなんて言われたら、そりゃあ嬉しい…嬉しいけど…… 「…俺は…反対だ」 俺のその一言に、一瞬悲しげに揺れる目が見えたが、直ぐに意を決した強い眼差しに戻る。 「うん、環生ならそう言うと思った…でも、出来ることなら繋ぎたいの…環生の生命を引き継いでくれる存在を…」 「…悠香…」 俺がこの世にいた証となるものは、他にも沢山ある。 けど…俺の命を繋ぎたいのだと言う、悠香の想いに…それ以上言葉が出て来なかった。 「…癌は…」 静かに言葉を発した宮本先生に、俺と悠香の目が、宮本先生を映す。 「うつるものではありません…元々人間の身体の中にあるものなんです…それが、色々な原因が引き金で発症する……望めるか、望めないかで問われるなら、望めます…癌だから子供を作ってはいけないという、ルールはありませんし、癌だから、性欲が無くなる訳もありません…体力の問題はあるかもしれませんが、それもやはり免疫力を上げることで、違ってくるかもしれません」 淡々と答えてくれた宮本先生。 確かに…性欲は癌になったって普通にある…が、子供はまた別の問題だ。
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