2248人が本棚に入れています
本棚に追加
/466ページ
「入江さん、癌を患っていても、あなたは普通の人間です…普通の人間が普通に望むものを、諦めることはないと、私は思います…限りがあるから諦めるのではなく、限りがあるからこそ、貪欲になっていいんです…おふたりで、良く話し合って下さい…では、また一ヶ月後にいらして下さいね…あ、それとこれを…」
宮本先生が名刺を悠香に手渡した。
「もしも…入江さんの病状が急変する事があったら、ご連絡下さい…直接私に繋がりますので」
「ありがとうございます!」
普通の医者の域を超えてると思うが、宮本先生はこういう人なのだろう。
宮本先生に頭を下げ、診察室を後にし、家路に着く。
悠香の運転する車の中では、お互い何も話さなかった。
またひとつ……
考えなければいけないことが出来た。
宮本先生は、きっと…躊躇する俺の気持ちが分かって、分かった上であんなふうに、俺の背を押すような言葉を掛けてくれたんだろう。
宮本先生の気持ちも、悠香の気持ちも…嬉しくて、有難い。
妊娠を望んだって、今すぐ出来る訳じゃない。
だとしても……やっぱり簡単に踏み込めない自分がいる。
マンションに着き、悠香が作ってくれた昼飯を食って、薬を飲んでソファーに深く座り、脚を伸して投げ出す。
「疲れちゃった?ベットで横になったら?」
俺の横に座った悠香がそう言う。
「いや…大丈夫だよ」
発病する前の身体に比べたら、体力はかなり低下していると、自分でも気が付いている。
それに加え、最近は部屋から一歩も出ずに過ごしていたから、余計に落ちたかもしれないが、それよりも今は……
俺を見つめる悠香に視線を向ける。
最初のコメントを投稿しよう!