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「それよりさ…子供のこと…なんだけど…」
悠香が仕事を退職すると言った時も、俺はやっぱり最初は手放しで賛成は出来なかった。
子供をその身に宿し、育むのは女性にしか出来ない。
子供ひとりを世に誕生させるのも、女性だ。
誕生してからは、夫婦ふたりで協力して子育て出来るなら、俺だって……
俺だって、悠香と俺の血を分けた分身が欲しい。
責任も義務も、何もかもを悠香に背負わせることになる。
それが分かっていて、容易く賛成なんて、出来ない。
悠香を残し、先に逝くのだって…未練が残るだろう。
それでも、絶対に重ならないと思った俺と悠香の想いが重なって、充分すぎる程の幸福を与えられたと思ってる。
これ以上は……
「…環生が反対するのは、残された私が大変な思いをすると、思ってるから?」
悠香の問いに黙って頷く。
「確かに、簡単じゃないよね…人の親になるのって…それに、どんなに願っても、子供が出来るかどうか分からないし……だけどね、もしも環生との子供を授かることが出来たら、私……頑張れると思う…私の隣に居てほしい環生と、離れる時が来ても…頑張ろうって思えると思うの」
悠香が俺の手の甲に自分の手を重ねる。
お互いの体温を、感じることが出来る今が……いつか、無くなることを想像すると、胸が軋む。
手を裏返し、悠香の手のひらと自分の手のひらを合わせ、握り合う。
『頑張れる』か……
「子供に依存しちゃ駄目だし、いくら環生の血を引いていても、環生じゃないから、代わりにするつもりもない…他の誰も、環生の代わりにはならないし、なれない…でも、私の生きる意味になってくれるって、そう思うの…強い自分であろうとすると思うし、環生の生命を繋ぎたいのも本当…」
悠香が両手で俺の手を握りしめ、胸に当てる。
「…私…もっと早く自分の気持ちを認められたら良かった…どんなに後悔したって、過ぎた時間は取り戻せないけど、もっと早く素直になれてたらって、やっぱり思ってしまう。だからね、もしも生まれ変わったら、また環生に恋をして、恋人になって、結婚したい…私が私でいる間は、環生がいなくなっても、環生を想って生きていく…それなら、環生は私の心の中で生き続ける…だから、私を待っていて…って、凄い束縛よね…でも、そうなれたら嬉しい」
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