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昨夜、環生の入浴中に父に連絡をした。
久し振りに父に電話を掛ける…ということよりも、告げる言葉に、言い様のない緊張感に包まれる。
詳しい事は、会ってから話せばいい。
今は、父に会う時間を作ってもらうことが先決だ。
アドレスから父の携帯番号をタップし、通話マークに触れる。
コールの音と、自分の鼓動の音が重なるように感じる。
今でこんなに緊張してちゃ、だめだよっ!
耳に当てる、携帯を持つ手に力が入る。
数回のコール後……
『…もしもし、久し振りだな…元気にやってたかい?』
聴き慣れた、穏やかな声音の父の声。
『うん…お父さんも、元気だった?』
一人暮らしを始めてから、定期的に連絡はしていたが、会うのは年間で片手で数えられるくらいだ。
『ああ、変わりないよ!それより、こんな時間にどうした?何かあったのかい?』
声音は変わらないが、私を案じてくれている言葉を掛けてくれる。
『あのね…お父さん…明日なんだけど…時間ある?あ!…仕事あるの分かってるから、その後でいいの…その…お父さんに…会って欲しい人がいて…』
父に、こんなことを言う時が、私に訪れる日が来るなんて、思わなかった。
彼氏のかの時も、恋人のこの時もなかった私が……
『……………………』
父の返答を待っていた私も無言で、父も何も言わないから、静寂に包まれる。
待ち切れなくなった私が、
『お、お父さん…聴いてる?』
『えっ!?あ…うん…勿論、聴いてるよ…その、少し…いや、かなり驚いて…そうか…そうかっ!』
始めは辿々しかった父が、明るい声を出しはじめる。
『いやぁ…まさか悠香にそんなこと言われる日が来るなんて、想像してなかったよ!心の準備が全く出来てなかったからな…どうせなら、休みの日にゆっくり、食事でもしながら会ったらどうだい?』
結婚に向けて、一刻も早く進めたい私には、父の提案を利くことは出来なかった。
『早く…会って欲しいの』
『早くって……そんなに急ぐことは……って、悠香…もしかしてっ!』
こちらの事情を知り得ない父が、何かを思い付いたようだ。
『そっかぁ…そういうことか…』
しみじみ…且つ何故か嬉しそうな口振りの父に、私の頭の中はクエスチョンマークが浮かび上がる。
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