lesson 1

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「…ねぇ夏くん……それ何杯目?」 空になったビールジョッキを店員に渡し、新しいビールに口を付ける夏くんに問う。 「……確か6杯目くらいかな?俺ザルなんですよね……今引越ししようとしてて、金入り用だから……こんな時しか呑めなくて……呑み貯めしてます」 ザルは頷ける。 顔色ひとつ変わってない。 良いなぁ…… 私も周り気にしないで、呑みたい。 外でのイメージを崩さない為に……我慢してるのに……隣でそんなに呑まれたら……目の毒だ。 「…私、パウダールーム行って来るね……」 気分を変えるため席を立ち、宴会場から抜け出る。 パウダールームで、化粧を直し…… …あ……帰りコンビニ寄らなきゃ……家にビールなかったはず…… ……なんてことを考えながら、パウダールームの扉を開けた、真ん前の廊下の壁に……背を預け、腕組して立っている人物と……数分見つめ合う。 さっきまで、大勢の女性に囲まれていた筈の……彼が何故ここに…… 「…何で……ここにいるの?」 「悠香さんと……話したくて……少し…僕に時間を下さい」 そう言って壁から背を離し、 一歩私に近付いた彼が、有無を言わさずに、私の手首を掴む。 話するなんて、了承してない! 「ちょっとっ!…離してよ!」 がっちり、掴まれた手首……逃れようと、腕を振り回しても……簡単に振り解けない…… ……廊下の突き当たりまで手を引かれ……壁と……壁に両腕をつけた、彼の身体に挟まれる。 奥まったそのスペースは、パウダールームからは死角で、他人に気付かれ難い。 いつも、へらへらしてる顔は……見たことがないくらい……真剣で……怖い…… いつもと……違う空気を纏う彼……私を見つめる目の強さが怖くて……彼の視線から逃れる様に視線を逸らす。 「……話……するって、態度じゃ……ないと思うけど……」 「……こうでもしないと、俺の話なんて聴こうとしないだろ?」 突然変わった一人称と、口調に驚いて……思わず彼を見てしまう。 「悠香さんの前でだけは……自分を取り繕うの……もう止める……どんなに好青年ぶったって、最初の出会いの、悪印象が付いて回るなら……意味ないしな……それなら素を出して、悠香さんに迫った方がいいって……今日……つくづく思ったよ……」 敬語がなくなって、砕けた口調……それでも表情は、変わらずに真剣な……都築くん……
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