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「はあー!?異動っ?」
私の声が、経済部のフロアに響き渡る。
私の見た目と、普段の作った人格しか知らない同僚の面々は、それは驚いたことだろう。
……が、そんなこと知ったこっちゃいられない事態が、今…正に私に起こっているのだから、自が出ても仕方ない。
「どういうことですかっ!?編集長っ!」
バンツ──!
編集長のデスクの上に、山のように積み上がった、書類や原稿が、私が両手でデスクを叩いた振動で、その場を舞い落ちる。
「お…おおお落ち着いて、広瀬くん……!」
ダラダラ汗を流し……私に凄まれて、焦っている編集長……
納得出来ず、怒ってはいるが……冷静さを欠いている訳ではない。
……編集長……寧ろあんたが落ち着きなさいよ……
普段物静かで穏和……
やるべき仕事や、頼まれた仕事をきっちりこなして来た私……
そんな私が声を荒げたことで、ビビってんのかもしれないけどっ!
何でもかんでも、
『分かりました』……なんて、言うと思ったら大間違いよっ!
入社当時、右も左も訳の分からない、この経済部で……
女だからって、馬鹿にされないように、血反吐を吐く思いで……誰よりも努力してきたのよっ!
8年間……仕事onlyのつまらない人生歩んできたわよっ!
狙うは、この目の前のっ!
助平編集長の椅子を目指してっ!
……なのに……いきなり異動なんて……
それが、通常の3月の上旬や中旬に通達されるならまだしも……
明日から年度変わりの、末日に言われりゃ……私じゃなくても、切れるわよっ!
「……その……新しくね……雑誌が刊行されることになって……その……部署の……編集長になった………さ、佐伯くんが……どうしても……広瀬くんが欲しいと……た…頼まれた…んだよ……わ、私としては……きみは……経済部で……優秀な人材で……手放すのは……惜しいんだが……」
しどろもどろの編集長……挙句に向ける視線が定まらない……
「……佐伯さんて……あの……佐伯 冬子さんですか?」
「そ…そそそうなんだっ!佐伯 冬子くんなんだっ!た、確かっ…広瀬くんは、佐伯くんと…親しかったよね?」
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