トラベルシンガー・ドリュー

10/30
前へ
/31ページ
次へ
 娘の呼んだタクシーが来た。  私の前に停まると、にゅーん……と変形して人型のロボットになる。 「おまたせしました」 「待ってはいない。私をどこへ連れてゆく」  タクシーロボットは、優しい笑みをうかべた。 「ロボットのたまり場になっているバーがある。とりあえず、そこへ行こうと思うが、いかがか」  ロボットのたまり場。まとめて処分されるのではないか。一抹の不安がよぎったが、ほかに行くあてもない。承諾して、私はタクシーに乗った。  タクシーロボットはひとことも話さない。そのことが、私の不安をさらにかきたてる。  繁華街の通りを入ったつきあたりに、銀色の建物があった。雨風にさらされ、変色している。使われていない工場のようだ。ここがバーなのか。  タクシーロボットは私を降ろすと、もと来た道を引き返していった。  看板のない扉の前に、ロボットが立っていた。 「入店するか」  私はうなずく。  ロボットは私をくまなく観察し終えると、扉を開けた。 「ようこそ。ロボットバー、atomへ」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加