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店に入ると、カウンターにいたマスターが私を迎えた。
「いらっしゃい」
マスターは、蝶ネクタイをしたロボットだった。白いクロスでグラスを磨いている。テーブル席では、ロボットたちが談笑している。
カウンターの空いているイスに、私はかけた。長い裾を引きよせる。
どうしてよいかわからず、戸惑う私にマスターは言った。
「はじめまして、ですかな。ここはロボットバーという名ではあるものの、その実、ロボットたちの駆け込み寺のような役割もしているんですよ」
マスターの落ち着いた語り口に、緊張がほぐれていく。
「見てごらんなさい。ここにはロボットしかいないでしょう」
本当だ。マスターをはじめ、客も、店員も、皆ロボットだ。
「じゃあ、表のあれは」
「識別しているんですよ。ロボットのみが、入店を許される」
飲みものをすすめられ、私はオイルを注文した。オイルの並ぶ棚には、見たことのないラベルのものばかりだ。
私が迷っていると、マスターはひとつを手にとり、グラスに注ぐ。
「はじめてのお客様には、お出しすることにしています」
phoenixという名のオイルだった。
海と空を思わせるブルーに、山のみどりのグラデーションが美しい。
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