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「この町は、人とロボットが共生していると聞いたわ。なのに、ロボットだけが入っていいなんて、おかしいわね」
マスターは頷くと、言った。
「異なる者が暮らすというのは、なにかと不都合が多いものです。外から見れば、理想的な町のように思えますが、うまくいかないことも、もちろんあります」
グラスのオイルが、ゆっくりと溶け合い、混ざり合う。
「人には理解できない相談ごとや、身寄りがなく廃棄されそうなとき、純粋にロボットだけで語らいたいとき……。そのために、ここはあります。わたしたちのネットワークを活かして、必要な場合には、福祉的な援助もできます」
私は、オイルを飲むと言った。
「なんだか、夢のようなところね」
「夢ではありませんよ。シェルターのようなところでしょうか。オーナーの、理念ですので」
「オーナー? 人間なの?」
「ええ。この店を設立した方です。ロボットたちのために、私財を投じて運営されております。人と、ロボットが共に暮らしていくための、一助になれば、と」
感心な人間もいるものだ。違法なロボットを排除する者もいれば、守る者もいる。
「マスター、私、歌をうたいたいの。歌える場所を知っていたら教えてほしい」
マスターは、駅のそばの広場など、路上でパフォーマンスができる地点をおしえてくれた。
認められている場所でなら、さっきのように、警備員に咎められる心配もない。
「ありがとう。ごちそうさま」
私は言って、なけなしの小銭をカウンターに置いた。
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