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イスからおりて、思いだした。今夜の寝床、決めていなかった。
マスターに言うと、こころよく応じてくれた。店の奥の別室に、充電ルームがあるという。様々なロボットが、思い思いに転がっていた。ロボットのサファリパークみたい。
私はなるべく気に障らないよう、隅のほうで眠ることにした。シャットダウンして、朝を待つ。
翌朝。
堂々と町を歩けることが、こんなにも素晴らしいなんて。
私は浮き足立って、散策を満喫していた。昨日のうちに巡ったはずなのに、すべてが新鮮に思える。atomのマスターと会えてよかった。でなければ、今日の私も、スパイのように町を徘徊していた。
身の保障はなくても、理解のあるロボットがいるのは心強い。
うしろ向きで走ってくる子どもが、私の足にぶつかり転ぶ。泣き出してしまった子を、よしよしとなだめていると、あわてた様子でロボットがやってきた。
丸々と幅のあるロボットは、
「目を離すとすぐどこか行っちゃうんだから。もう、坊っちゃまったら」
と言って叱っている。
ごめんなさいねぇ、と、私に小袋をにぎらせた。
「あめちゃん、あげる」
と言うと、ニカッと笑って、子どもの手を引き去っていく。
あめちゃんは、食べられないけれど、もらっておこう。大切に、ポーチに収めた。
ショーウィンドウにへばりつくロボットのカップルがいた。私も覗いてみた。頭に立派な羽飾りのついた帽子や、上品なドレープを描くワンピース……。
こんな衣装で歌えたなら。
入口に立っていたロボットが、私に話しかける。
「中でごらんになりますか」
「いえ。見ているだけですから」
値段はわからないが、ゴージャスだった。私の手持ちではとうてい届きそうもない。そそくさと後にする。歌って稼ぐほかはない。
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