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「変わった服、着てるね」
「近づくな!」
娘は距離を保ったまま、つづける。
「なにもしない、って言ったじゃん」
「私を捕まえにきたのではないのか」
「捕まりたいなら、そうしてあげる。でもあなた、ミュージシャンでしょ。あたしがどうこうしようって話じゃない」
ならば、何故。
「巡回中だよ。不審者発見!」
と言って、娘はおどけて警棒を回し、私にぴたりと狙いを定めた。
警棒は、ラメやストーンでカスタマイズされ、万華鏡のようだ。
娘はくもりのない瞳で、私をみつめた。
「出てってくれない? ここ、歌うとこじゃない」
「おまえ、私の歌を聞きたいと言った」
「聞きたいけど、ここはダメなの」
娘は頑として譲らない。
私はギターを両手で抱えた。
「私、行くところがない」
困ったな、という顔をして、娘は通信機で交信している。
「タクシー、呼んだから。あとはそこで聞いて」
じゃあね、と警棒を振り、娘は去ってしまった。
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