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「汚いでしょ! やめなさい!」
母さんがいった。
「僕はそう思わない」
いつものショッピングモール。母さんは二階を見てまわるのが好きで、僕は一階の香ばしいにおいのなかにいるのが好きだった。今は母さんのターン。ブティックダンジョンでのアイテム探しに僕がつきあっているかたちだ。
「汚いに決まってるでしょう。なに馬鹿なことをいってるの」
僕は今日で十歳だけど塾ではもう中学の勉強をしている。勉強だけじゃない。少しは大人の世界のしくみも知っている。なにが汚くてなにが汚くないのか。見ためや古くさい考えでそれを判断──いや、決めつけている母さんは、僕からいわせてもらえばなにもわかっちゃいない大人だ。
「根拠は」
「え?」
「これが汚いとされる根拠」
そうやってまた理屈をこねて──表情から読み取れた心のなか。
「お母さんは常識の話をしてるの。わかる?」
「それが常識になった根拠を聞かせてよ」
ショッピングモールの床はばい菌だらけ。特にトイレを使ったあとの靴底なんて想像するのも嫌なぐらい汚いわ──母さんなりの根拠。
「そうかな」
いって、僕はやり玉にあがっている、甘く香ばしい好物にかじりついた。
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