有給取得理由:「推しの誕生日を祝うため!!」

12/18
前へ
/20ページ
次へ
 濡れ鼠でイベント会場に到着した。  握手は、雨のために屋内で行われているようだ。  周囲を見回すと、レインコートを着たルララを見つけた。 「やっと来た! 夜騎士さーん、マヒマヒさんです!」  ルララが叫んだ先に夜騎士がいた。動けるデブを自称する彼は、機敏な動きでスタッフに駆け寄り、勢いよく頭を下げた。 「あと一人お願いしゃす! ガチのゆずみくファンなんです! この日のために仕事休んだ人なんです!」 「ですが、さっきの方で受付は終了しまして」 「たった数秒じゃないすか! そこを何とか!」  夜騎士が我が事のように頼んでくれるが、困り顔のスタッフを見て、麻緋はあきらめるべきだと悟った。  ファンがしつこくして、ゆずみくの心証を悪くするような真似はしちゃいけない。  夜騎士にそう言おうとすると、別のスタッフの声が飛んできた。 「ゆずみくさん側から『OK』出しました」  救済の天啓に、麻緋も夜騎士も面を上げた。ルララが「神対応!」と細い身体でジャンプする。 「こちらにどうぞー」  スタッフの案内に導かれ、麻緋は屋内に足を踏み入れる。その直前に、ルララが自分のタオルでさっと麻緋の濡れた全身を拭いてくれた。  室内は仕切りが並べられ、列が作りやすいようになっている。歩が進むにつれて、心臓の音も大きくなる。  奥に行き、最後の角を曲がると、小さな袋小路になっていた。  机を隔てた向こうに、いた。  天使がいた。 「こんにちは、ゆずみくです」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加