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(ああ、どうしよう)
ありがとう以外の言葉が思いつかないよ。
ありがとう以上を伝えたいのに。
「ありがとう……!!」
それしか言葉を知らないかのように、麻緋は繰り返した。
すると、ゆずみくのちいさくて柔らかい手が、そっと麻緋の手に添えられる。
いつもの明るい笑顔ではなかった。
少し切なそうな、きれいな微笑みを浮かべていた。
「こちらこそ、ありがと」
ほのかに目が赤い。うっすらと泣いていた。
「ありがとうしか言えないの、辛いなぁ」
面映そうにはにかんだ彼女。
十八歳になったばかりの、一見するとどこにでもいるような少女。
けれどこんなにも、ひとの心を惹きつけるアイドル。
麻緋と握手を交わした彼女は、そして去っていった。「今日はありがとー!」と元気よく、大きく手を振って。
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