有給取得理由:「推しの誕生日を祝うため!!」

15/18
前へ
/20ページ
次へ
(ああ、どうしよう)  ありがとう以外の言葉が思いつかないよ。  ありがとう以上を伝えたいのに。 「ありがとう……!!」  それしか言葉を知らないかのように、麻緋は繰り返した。  すると、ゆずみくのちいさくて柔らかい手が、そっと麻緋の手に添えられる。  いつもの明るい笑顔ではなかった。  少し切なそうな、きれいな微笑みを浮かべていた。 「こちらこそ、ありがと」  ほのかに目が赤い。うっすらと泣いていた。 「ありがとうしか言えないの、辛いなぁ」  面映そうにはにかんだ彼女。  十八歳になったばかりの、一見するとどこにでもいるような少女。  けれどこんなにも、ひとの心を惹きつけるアイドル。  麻緋と握手を交わした彼女は、そして去っていった。「今日はありがとー!」と元気よく、大きく手を振って。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加