黄昏時を待たずに

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 入社して三ヶ月は研修。  同期はいかにも柔道部出身らしい雰囲気の四名で、時々虚をつかれてもたつく感じといい、実に初々しい。うち一人が空手部出身者だとわかったのは少し後だが、別にどうでもいい話だ。  彼らとの歳はさほど離れていないはずなのに、教育係の社員からオールドルーキーみたいな扱いをされる。  まあ、仕方ない。  こいつらが大学で青春を謳歌していた頃、俺は毎日汗と泥水にまみれて有刺鉄線の下を這いずりまわっていた――少なくとも俺が一番、実戦経験を積んでいる。  当初は年上だからと不即不離でいた同期の連中との付き合いも、ある一日を境に改善した。  男には男なりの打ち解けかたがある――つまり、実習に乗じた彼らの腕試しにことごとく応じて、全員仲良く返り討ちという結果をくれてやったのだ。 「長塚さん、ここ来る前は何やってたんスか」 「内緒」 「命知らずか、聞いたら消され」 「どういう意味だよ」  くだけた会話を交わし、皆で出かけて焼肉屋で飯を食うようになる頃には、研修も終盤にさしかかっていた。
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