黄昏時を待たずに

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 研修修了日の一週間前。  奇妙なタイミングで、俺たちの指揮を執る西日本警備局長ってのが挨拶兼ねてやって来た。  元機動隊あたりのいかつい男だろうという予想に反して、講習に現れたのは女だ。しかも、いい女。  若い同期たちは一様にそわそわして、落ち着きがない。 「今後の活躍に期待しているわ。頑張ってね」  締めの言葉と彼女の微笑にやられたらしく、局長退室後の同期たちはそれぞれ脱力して机に伏せたり、声を出して気合いを入れ直したりと、まあそれなりに雑念を払うのに大変らしかった。  たかが上司の外交辞令に――こいつら、きっと童貞だ。  そして迎えた最終日の夜、立呑屋で同期と打ち上げをしている最中に、知らない番号の着信があった。 『今晩は』  アルトの声に思わず片方の眉を上げてしまった俺を、向かいの吉野が見ている。  相手に今夜会えるかと訊かれ、静かに答えた。 「一時間後に」
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