黄昏時を待たずに

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 呼び出された街外れのバーにいたのは、あのいい女。局長だ。  黒のスカートから伸びる脚線に目をやってしまう俺も彼女の隣に腰を下ろした。バーテンダーには適当にスコッチを頼む。  お疲れ様、と、彼女にねぎらいの言葉をかけられて乾杯。同期四人に見られたら、多分しょうもないくらい嫉妬されるのだろう。  しばらく世間話やら、これからたずさわるであろう業務の話をして過ごす。  理知的な女でよかったと思いつつスコッチの二杯目を口に含んだ時、 「貴方には今後も、年に何回かの研修と試験を受けてもらうことにしたわ」 「俺だけ? 何故」 「詳しく聞きたい?」  場所を変えましょうか――そう動いた赤い唇が、酒の入った今はやけにコケティッシュに映る。  俺は美人の上司に誘われて、不適切な付き合いは謹んでご遠慮申し上げるって柄じゃない。  据え膳はありがたく頂く主義だ。
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