黄昏時を待たずに

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「タトゥー入れてるのね。何て意味かしら」  つぶやく局長はふっと脇へ煙を吐き、 「うなされてたわよ、長塚君」  ……マジか……。 「……そりゃあんたの隣だからな。あとが怖いに決まってる」  俺に身を寄せて笑う彼女に、バーでの話の続きを問う。 「俺に、何を求めてる?」 「貴方の経歴を見て、本社レベルかって人事担当がざわついたわ。私は頼もしいと思った」  局長はふふと含み笑いを洩らし、 「段階を経て、いずれは指導する立場になって欲しいの。社員の実力向上のために」 「ふうん」  行く末は指導員か。  平和だ。 「今さらだけど――希望赴任地、ある?」  そう訊いた彼女の指先からそっと煙草を取り上げ、俺も一服。 「そうだな」煙を吐き出し、 「しばらくのんびりしたい――辞令よりもっと南の、自然豊かなとこにしてくれ」
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