黄昏時を待たずに

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 バカンス気分は困るわねと言われて、二人で笑う。  ……そうだ。  心穏やかに暮らしていれば、あの出来事を少しでも早く忘れてしまえるかもしれない。  未来の指導員確保のようなことを言ってはいたが、本当は何を考えているのか――とりあえず便宜をはかってくれた局長から赴任地の連絡を受けたその日、俺は着任するブランチ周辺から物件探しを始めた。  移動日を含めて一週間後にデビュー。あくまでも俺は新人で、自分の時間はさほど与えられまいと考えている。  だから、なるべく早いうちに住む環境と条件を決めてしまいたかった。  しかしリクエストの達成度がここまでとは思っていなかった。  空港の到着口から外に出た途端、独りでにふうんと唸ってしまう。  心地いい風、澄んだ空。  悪くない。  タクシーに乗って北上する間、観光気分で窓の外を眺めた。
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