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ーーあれから、もう十年か。
竹箒を持つ手を止めて、゛涼香″は空を見上げた。
もうすぐ夏も終わる。ここ最近は風も涼しくなっていた。
あの日、地震によって命を落とした彼女は、ふと気が付くとこちらの世界で日々を過ごしていた。
どうやら幼い頃は意識がはっきりしていなかったようで、自身が何者であるかを自覚したのは、寺の前で拾ってもらってから四年が過ぎた頃だった。
その時のことを一言で言いあらわすのなら、「夢うつつだった目が覚めた」である。
それまで゛胡々″と混じり合っていた゛涼香″の意識ははっきりと覚醒し、四肢に染み渡った。今居るのは自分だと自覚できる程に。
゛胡々″は、幼く、小さすぎた。
今、胡々は幼子のまま涼香の中で眠っている。
「ーー白翼、ここに居たのか」
声をかけられ、ぼんやりとしていた彼女ははっと我に返った。彼女は今、この寺で白翼と呼ばれ暮らしている。
見習い坊主ーーつまり、男のふりをして。
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