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「老師様、如何しましたか?」  振り返ると、彼女を拾い上げて育ててくれた老師がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。  寺は女人禁制、ということで涼香は男のふりをすることになったが、それを考えても感謝して余りある。あの日拾ってもらわなければ、確実に命はなかった。 「なに、干し柿をたくさんもらったのでな。白翼の好物じゃろう? おいで、一緒に食べよう」 「でも、まだ掃除が」 「いいから、いいから」  にこにこと笑う老師に苦笑して、涼香は頷いた。優しい人だ。  この人に拾われて、本当に良かったと思う。  寺に向かって歩き出した老師の後に続きながら、涼香は感謝を捧げた。  少し肌寒い風が木の葉を揺らす。  穏やかな、優しい日常。  しかし、この平穏な日々はほどなく終わりを迎える。
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