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助からない、と悟ると諦めが心を冷やし、理不尽な現実に怒りが湧いた。
何故、どうして、自分がこんな事になるのか。
(私が何をしたというの)
今度は自己を憐れんだ涙が浮かぶ。ほんの数時間前まではごく平凡に、穏やかに暮らしていたというのに。どうして。ひどい。助けて。
心は幾重にも描き乱れる。
怒り、悲しみ、嘆き、そして巡りめぐってふと思う。
(・・・・・・せめて)
せめて家族は助かっていて欲しい。母と弟、そして仕事でここにいない父。
ああ、せめて。
(生きていてくれたら。こんな思いをするのは、私だけであって欲しい・・・・・・)
お願いします、と自然と祈りが口をついた。
お願い、お願いします。
私はいいから、そのかわり母を弟を父を、皆を助けて。無事であって欲しい。ーーお願いします。
もしかしたらそれは、苦痛から逃れたくて必死で何かを考える為のものだったのかもしれない。
だが、涼香は一心に祈った。祈り続けた。
生死の境にある少女の、針の先を突く程に集中した祈り。苦痛をしのぐ願い。
暗くなっていく視界、途切れかける意識。全てが消えて無くなったその瞬間、ふと、遙か遠く風が吹く音が聞こえた気がした。
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