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(ーーえ)
くらり、と視界が反転する。
びゅうびゅうと耳元で唸る風は息も出来ぬ勢いで身体を打ち付け、眼口を開けることもままならず、涼香は身を縮こませる。
なんとか身を守ろうとしたが程なく吹き飛ばされ、糸の切れた凧のようにくるくると宙を舞った。
(あああああ!)
回る回る視界の中、叫ぶことも出来ずに涼香は風に揉みくちゃにされ、何処かに投げ出された。
なんとか目を開くと、右も左も見えぬ暗闇に一人ぽつんと立っていた。
(ここは? 一体、何がどうなったの?)
涼香が混乱して辺りを見回すと、ふいに光が瞬いた。
(あれは・・・・・・子供の頃の私?)
光の中には、懐かしい記憶が見えた。
光は次々と瞬く。
幼稚園の頃の幼い笑顔、小学校の入学式、中学生に上がった時の自分。
涼香は気付いた。
(ああ、私はもう)
哀しかった。暗闇の中、淋しかった。
俯いたその時、どこからか声が聞こえた。
(・・・・・・うめき声?)
気になった涼香はその声のする方へと歩き出した。
暗闇の中を歩く、歩く。
どれくらいの時間がたったのか、何日か、何ヵ月か、それとも・・・・・・。
ただひたすらに声だけを聞き、歩き続けた。
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