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 冬だった。がちがちと歯を寒さで打ち鳴らし、震えながら゛彼女″は歩いていた。  雪を踏み締める足は小さく、靴を履いていないために赤く腫れ上がり、凍傷になりかけている。  しかし、そんな痛みなど、幼子の身体を襲う寒さと飢えの前には些細なことであった。 (寒い)  彼女はぼんやりとそう思う。  身にまとう薄っぺらな布一枚だけではとうてい寒さを防げず、もはや全身の血さえ凍りつくようであった。 (お腹すいた)  飢えというものを前世では味わったことがなかった。これほどまでに辛いものなのか。  そして、人とはこれほどまでに生にしがみつくものなのか。  三日。  もう三日も何も口にしていない。  ああ、違う。昨日は見つけた骨をしゃぶった。でも、もう無い。  野良犬に襲われた時に手放した。  あの犬もがりがりだった。それに、あの後やってきた大人に見つかって・・・・・・。    哀れな犬の末路を思い出しながらも、彼女は鉛のように重い足を惰性で動かせていた。  どこかで、止まったら終わりだと気付いていたから。  ああ、と彼女は白い息を吐く。  生まれた邑はとても貧しく。彼女が生まれてから六年、母や姉が兄が次々と死んでいった。  そして父さえも。
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