歪んだ彼女の目覚め

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しばらく私がちびちびと水を飲んでいると、男性が水を取りにいく前に私がした質問を思い出したようだ。 「そういえば、僕の名前を言ってませんでしたね。守(マモル)といいます。改めてよろしくお願いします、ユリさん」 私も自己紹介したほうがいいのだろうか、と思い口を開く。 「...。あ、....。えっと...」 しかし、なんといえばいいのか分からなかった。守...さん?と同じように自分の名前と、まあ簡単な挨拶をすればいい。そう思うのだが、自己紹介をしようとすることで残念な事実を知ってしまった。私は、自分が何者なのかが分からない。 いや、名前は分かる。《ユリ》だ。と言っても、守さんが呼んでいるからそうなのだろうと思うだけなのだが。まぁ、違和感はないし間違っていないだろう。それにしても以前のことがまったく記憶にない。守さんは私の名前を知っているし、おそらく面識がある人なのだろうけど、それすら覚えていない。何人家族で、どこに住んでいて、何をしていたのか...。分からないことだらけだ。 私が黙り込んでしまって不思議に思ったのか、守さんが、 「ユリさん、どうかしたんですか?」 と聞いてきた。 なんと答えればいいのだろう、そう考える前に、 「私は何者ですか?」 と聞いてしまっていた。
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