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ダンメルクを除いたスカンディナヴィア、そしてスオミ、ラスィーヤの白海付近が私たちの持ち場。大陸と隔てる「おそらく」境界線。広いけれど人口は少ない。魔女も少ない。スカンの魔女は長らく21から11に減らしている。12にも満たない。
私はスヴェーリエに居を構え、夜毎それらの都市を飛び『耳』を澄ます。小さな農村、廃鉱。北はラップランドの針葉樹林を抜けた岩山まで、南はダンメルクを臨む岬の縁へ。僅かでもひとの営みのあるところはすべて廻る。夏は白夜で人目を避けるのに苦労するが、冬は極夜の中、影と紛れて動いたりもする。私は「聴く」、誰かを呼ぶ声。助けを呼ぶ声。魔女でない者から産まれた異質のもの―――幼い《魔女》の叫びを探して。
スオミとラスィーヤはひとの言葉が変わるので現地の魔女たちと連携をとりながら。サーメは出身の魔女がいまいないので手分けして。彼らの遊牧はひとの引いた国境線に縛られない。そんなところは私たちと一緒だ。ノルゲには先生がいる。先生は以前私と同じ仕事をしていた。
先生は『呼ぶ者』、《引き寄せの魔女》。だから協会から私を託された。私がスヴェーリエに降りたのは6歳の夏、それまでは協会の支部でおばあさまたちとその《僕》に囲まれて暮らしていて、同世代の子にはひとも含めて会ったことがなかった。
当時スヴェーリエを担当していた先生に連れられて、近くの町や遠くの農村を訪ねるようになって、《魔女》はひととは違う営みで暮らすのだと肌で理解した。
私は《魔女》。周りがみな同じだった協会から世界の異物へ。私の普通は世界の常識ではなかったらしい。意識は変遷した。
私の母は《運命の人》と遭遇した魔女のひとり。私を孕んで、出産後はすぐ亡くなったそうだ。《魔女》は《魔女》を産む。魔力を受け継ぐ子を生涯にひとりだけ。《運命の人》と出遭った時だけ。すぐ亡くなるのはある意味幸運だ。出産後は魔力だけでなく、あらゆる力を子に奪われる。ゆるゆると命が枯渇する苦しみは相当なものだと教わった。
《魔女》の半数以上がそうして次世代を繋ぐ。物心付いたときにはおばあさまたちに育てられていたので、母のこと、魔女の宿命もすんなり受け入れられた。
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