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十六回目の誕生日
母と姉に背を押され、真っ暗なダイニングに入れば、仄明るい灯火に照らされたケーキが僕を迎えた。
余計なクリームは一切載っていない、シンプルなフォルムの真っ白なケーキ。
宝石のようにきらめく果物と、名刺サイズのクッキーが飾られ、極めつけに火の灯る長い蝋燭が一本と、短い蝋燭が六本刺さっている。
【Happy Birthday】
ほのかな灯りの下、クッキーにチョコレートで書かれた祝いの言葉が浮かぶ。
なんだか、胸の内側がこそばゆい。
その内、どこからともなく現れた父も家族の輪に加わり、三人で僕の頭や肩や背中を軽く叩き、次いで優しく手を添える。
「誕生日おめでとう、マドカ」
この世に生まれた事を祝福され、今年も無事にこの日を迎えられたことを感謝し、共に在る幸福を再確認する瞬間。
複数の視線がこちらに集中して、妙に照れくさい。
家族に見守られながら、僕は祈るように蝋燭の炎を吹き消した。
(少し前の誕生日を思うと、考えられないほど平和な誕生日だ)
僕の好物が並び、それを囲んで家族が笑いあう。
まさに理想の家族像がここにある。
だが、四年前の誕生日、僕は隠しきれないほどの戸惑いを抱えていた。
ことの発端は、父の突然の告白。
あの日、学校から帰宅した僕は間もなく父の書斎に呼ばれ、こう言われた。
「円(マドカ)、お前は私が産んだ子だよ」
(今、振り返っても、やっぱり突拍子もない話だよな)
この件に関しては、話を聞いた当時よりも、今になって、色々と思うところがあった。
(でもまあ、やっぱり過ぎたことは過ぎたことだ。
ただ、気になるのは――)
【次代の転生者】
その存在――正確には、その存在が招く"犠牲"が、僕の心に昏い影を落とす。
その影はもしかしたら、父の心にもあるのかもしれない。
「……」
「どうした?」
「――いや、なんでもない」
思考に割り込む形で父に声を掛けられ、軽い逡巡の後、首を振る。
いつか――
いつか、この件で、父と再び腹を割って話す時が来るのではないか――
そんな予感がした。
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