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◆◇◆◇
電話の用件は実父の危篤を報せるものだった。
この報せを受けた時の私の思いたるや、恐らく誰にも理解はできまい。
(何故、今なんだ!?)
彼女の妊娠が発覚した直後の報告。
私はこの最悪のタイミングを招いた運命の悪戯に、大いに動揺した。
私が嘆いたその理由は現在死にかけている男の特性にある。
【転生者】
それがあの男の正体だった。
元は只の人間に過ぎなかったのに、【不死の者】を娶った際、かの者と共に在り、添い遂げる為に、禁忌を冒して己の輪廻を捻じ曲げた男。
魂と記憶はそのままに、幾度となく転生を繰り返してきた。
この男の厄介なところは、その呪われた魂にある。
(幾人もの人の情を踏み躙りながら転生を果たし、それでも尚、飽き足らずに此岸に在り続けるなど、存在そのものが呪いだ)
今にも死にそうな男のことを脳裏に浮かべるだけで、思わず舌打ちをしてしまう。
今後、その呪いのせいで私は大いに悩まされ、もしかすると、つれあいも娘も辛い思いをせねばならなくなるかもしれないからだ。
なるべく冷静を努め、思考を整える。
――人の魂は、いつ、肉体という魂の器を得るのか? または宿るのか?
永遠の謎ともなりうる疑問。
禅問答のようにも、哲学のようにも感じられる。
普段ならば、そんな疑問など歯牙にも掛けないのだが、今は勝手が違う。
今、彼女の中には私達のこどもがいる。
それはまだ、人というよりも"未熟な魂の器"と呼ぶのに相応しい細胞なのだけれど、では、この器に魂が宿るのはいつなのだろう?
"魂の器"から"人"に転じる――魂が宿る瞬間とは、一体いつなのか?
その疑問から生じる、ある懸念が頭を過ぎる度に、私は戦慄を覚え、吐き気をもよおした。
(最悪の場合、"あの男"が私達のこどもに寄生してしまうかもしれないなんて、そんなの冗談じゃない)
私の懸念は、転生者の魂の、死後の行方にある。
転生者の魂は、死して肉体から解放された後、彼岸には渡らず、此岸に留まる。
やがて、自身の血縁のの誰かの下で受肉し、【次代の転生者】として、母胎の中で成長しながら生まれ出る時を待つ。
その間、【不死の者】(つまり、私の母なのだが)は、転生者の存在を探知し続ける。――再来する転生者を逸早く手許に置く為に。
そして、【次代の転生者】が見つかり次第、その親と話をつけ(拒む場合は半ば強引な手段を打ってでも)、母胎を【不死の者】の側につかせ、転生者が生まれ出た瞬間に奪取することになっている。
つまり、あの二人は、"あの男"を産んだ者の親としての情や人権を踏み躙り、犠牲にすることで、永き時を共に在り続けてきたのだ。
そして今、タイミングから推測するに、【次代】の白羽の矢は、私達のこどもに向けられようとしていた。
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