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転生者の再来――世代交代のシステムについては、話には何度か聞いていたが、今程虫唾が走る思いをしたことはない。
まるで、彼女とこどもへの蹂躙を予告されたようで、不愉快さが湧き、怒りで全身が総毛立つ。
――そんな暴虐は許さない。
彼女が不条理に苦しみ、不幸になるだけだろうが!
まさに命懸けで我が子を産もうとする彼女を待ち受けるものが、高確率の死と、産んだ子を奪い取られる不幸な運命だなどと、あっていい筈がない。
――なんとかこどもを"あの男"の手から守れないか。
もし、"あの男"の魔の手から逃れられなかった場合、いかに彼女を悲しませずに、離別させられるか。
この堪え難い現実があまりにも許せなくて、そして迫り来る時限に焦っていたこともある。
用意された非情な運命を回避する為に、私はひとつの大きな決断を下した。
それは人として許されざること。
彼女の私に対する信頼や思いを裏切り、胎内の子を私のエゴに巻き込んでしまう行為。
彼女やその子に一生許されないかもしれない。
愚かだ、傲慢だ、卑怯だ、と罵られるだろう。
それでも、一生かけてでも罪を償い、責を負おう。
恨まれることを甘受してでも、彼女の命とお腹のこどもの存在、娘の幸せを守る為に、そうしなければならなかった。
私がしたこと。
それは、彼女から子を奪い、私が彼女の身代わりとなったことだった。
特異点の最たるを親として生まれたこの身は、やはりと云うべきか"魔物"となる素質と才能があった。
幼少期より、神に仕える巫覡として、"役目"を果たしてきたから、素養も申し分ない。
生きていく為に、様々な修羅場を掻い潜ってきたので、経験も知恵もある。
神の真相の一部に迫り、その力の片鱗を御する力量もあった。
私は万能とは云えないまでも、ある程度のことならば、魔力を行使して叶えられる。
例えば、この身に子を宿すとか。
例えば、この身そのものを結界として、宿した子を他者の侵入と干渉から護るとか。
私の罪。
それは、彼女に秘して、その胎内の小さな命を自らの体内に転送し、育むこと。
そうすることで、彼女は出産による死を回避でき、転生者の忌避も可能となった。
万が一、こどもが【次代の転生者】になったとしても、彼女がこどもの存在に気付きさえしなければ、彼女は傷付かずにこども――転生者と離別ができる。
たとえ、この考えが愚かで、狂っているとしか云えなくても、今の私では、この方法しか考えられなかった。
そうして、私は計画を実行して間もなく、転生者――父の死に臨むこととなる。
あの男は、臨終の間際、障子の向こうから、私を"愚かな子"と呼んだ。
私のした愚行に気付いていたのだろう。
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