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高2の初夏。夏休み前だったと思う。
その日は、体育館の補修点検日で部活が休みだった。
だから放課後、私は開け放った教室の窓から身を乗り出して、校庭を見下ろしていた。
カッコいいと噂のサッカー部エースを見てみたくて。
でも3階の窓からでは、顔なんて見分けがつかない。
じわじわと夏の陽射しに灼かれているのも気になってきた頃、つんと誰かに背中の肩甲骨あたりを押されて、私はうわっと振り返る。
勢いよく振り向かれてびっくり、という顔をしたナツがすぐ後ろに立っていた。
「なに?」
いきなり身体に触られたことへの不快感で眉をひそめた私に、ナツは一瞬詰まってから、「透けてっぞ」と答えた。
「えっ」
自分の背中を見ようと大きく身体をひねったりしていた私がハッと気づいた時にはもう、ナツは教室のドアから出ていくところだった。
ドアに手をかけて、ちらっとこちらを向いたナツの目は、私の胸ではなく顔を見る。
目が合った瞬間すっと逸らされて、ふわりと毛先の巻いた髪がドアの向こうに消えた。
その時の、ほんの一瞬のナツの眼差しは、不思議な高揚感をもって今も私の記憶に残っている。
ー 最初に意識した時の好感度?
「カップを傾けてもスプーンですくえないくらい、かな」
ー Fin ー
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