カップを傾けても

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目顔で、覚えてるかなと尋ねれば、ナツはうんと頷く。 「あれ実は、マジ無理死ぬーって私の方が叫びたかったくらい緊張して、足震えたんだよー?」 ナツの薄い唇が少し開いた。 私は目を細めて、ナツの頬を手の甲で撫でる。 20代半ばになっても、ナツの顔はあんまり変わってない。 「そのせいでカップが揺れて、水がこぼれそうになっちゃったの。おっとっと、危なーい。ね? だから一口飲んでみた」 (そしたら、わかった。このひとが好き、って) 指先ですうっと唇をなぞったら、ナツはおわっと逃げるように上半身を起こして、背中をソファに押しつけた。逃げ足は速い。 「そのあと、どう続くと思う?」 「ど、どうって」 「ナツ君、プロの物書きになったんでしょ。このあとはナツ君が続けてみれば?」 「いや俺、雑誌編集者のタマゴだから。物書きじゃねーの。詩? とか書いたことすらない」 「私だってないよ。でもナツ君が聞くから」 ぷう、と頬を膨らませてみせたら、ナツは両手をあげて降参ポーズをした。 「ぅええっと、あー水は甘くて、最後にはカップからあふれました・・・とか」 へへ、と照れ笑いがこぼれた。 「あふれるほどの愛を求めちゃってるんだ?」 「うっわ、きたねーっ! ハメやがった」     
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