カップを傾けても

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ぐい、と腕で口を拭うナツの耳が赤い。 「カップをね、大きくしてみようか」 私はローテーブルのカップを指差す。 私の分と、ナツの分。 紅茶もコーヒーも飲めないナツの好きな、ココア。もうほとんど残ってない。 「それでもあふれちゃうなら、カップを増やす。予備もいるよー。いつダバッと注ぎたくなるかわかんないもん」 「うわちょっと、俺すっげー恥ずかしいんですけど」 「ナツ君のカップは?」 「うええ? ちょ、かんべん。俺トイレ」 逃げようとしたナツの腕にはしっとしがみついて、私はそこへお座り、と絨毯を指し示す。 「ナツ君のカップ!」 「うわ、はいはい蛇口全開であふれさせてるっての」 予想以上に甘い返事が来て、私はちょっとびっくりした。 ナツは自分のセリフが衝撃的だったらしく、「だから、俺をどこに突き落とす気だよ」とボヤいている。 困った時、頭の後ろをかくのは高校時代からのナツのクセだ。 男のくせに繊細な指が、がしがしと髪をかきまわしている。 (ねぇナツ君、カップの水はあふれて・・・ここにたまってた) 「ここ」 「うん?」 ここ、とナツの手を取って、自分のお腹を触らせる。 「え、・・・は?」 「赤ちゃん。・・・びっくりでしょ? もういるんだって。ここに」     
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