テタストキジン

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テタストキジン

 高橋をハサミで刺し殺した。  フィスカースって超小型バサミだ。  折り畳めるだけでなく、刃先はカバー内に収納出きハンドル穴に通してキーホルダーにも出きる。  誰もキーホルダーが凶器だなんて疑わない。  高橋もナポレオンの共犯者だったのだ。  彼は破傷風菌であるテタストキジンを使って母親を殺した。  クララにしたら憎み切れない憎い男だった。  破傷風菌は土や土壌の中に潜んでいて、傷の中で増殖するのだ。  症状としては体が突っ張る、激しいケイレンなどが見られる。  治療としては馬の血清がよく効くが、高橋は全く違う薬を処方した。  そう、高橋は医者なのだ。  クララの母親はナポレオンと不倫をしていた。  そんなことが世間に知れたら権威は地に堕ちる。  クララの暴走は止まらなかった。  弁護士と結託しライバルを次々に蹴落としていった。死体の処理は高梨涼子やリーに任せた。  クララは歳を重ねるごとに残虐になっていった。  最初の頃は標的がなるべく苦しまないように始末し、涙を浮かべることもあったが30を迎える頃には屍に唾を吐きかけたり、夜中の国道を改造車で暴走したりエスカレートしていった。 「普通は年齢を重ねると熟成されていき、大人しくなるんじゃないのか?」  葉巻を心地良さそうに味わいながら工藤が言った。徳川園の近くにある蘇山荘ってラウンジで飲んでいた。シガーの種類が豊富だ。  腕時計を見た。もうじきで午後8時になる。  兄は今頃あの世で何をしているのだろう?  名古屋に滞在するようになって数日が経った。  名古屋から中央本線で13分のところに大曽駅があり、そこから歩いて15分のところに徳川園はある。園のなかには龍仙湖ってゆー人工池があった。  池泉回遊式庭園と呼ばれるもので池を海にみたて造られている。 「クララの体内には鉛が蓄積されていたんだ」 「鉛中毒だったってのか?」 「ローマ帝国は鉛によって滅んだくらい、恐ろしい薬だ。クララの顔が灰色に見えたのも鉛によるものだ」  ローマでは上水道と下水道に鉛が用いられていた。皇帝ネロがダンダン冷徹になったのも鉛によるものだ。 「木村は難しいことをイロイロ知ってるな?」
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