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額に当たる水滴で目を覚ました。
ごつごつとした感触を背中に感じながら目を開けると、手作りで造った小屋の屋根には深緑の葉が敷き詰められている。
その葉の隙間から雨粒がしたたり、私の頬を濡らしていた。
いつの間にか雨が降っていたようだ。
ジャングルは雨の音と薄暗く曇った空が支配していた。
少し明るさが残っているところを見ると、まだ完全に陽が落ちてはいないようだ。
雨に濡れたせいか、気温に比べて肌寒さ感じる。空腹も限界を迎えていた。
自分の記憶をいくらたどってみても、昨日食べたものが思い出せない。
思い出せるのは最後に食べたものがどんぐりだったということだけだ。
その前に食べたものはなんだったか、と記憶を巡らせていたときだった。ふと、森の中に違和感のようなものを感じた。
雨の降る音。それとは別に、なにかを感じる。
気配。生き物の気配だ。
生い茂る木々の間から、こちらを見つめる目に気がついた。
私が追いかけると、その生き物は一目散に駆け出した。
シカかそれとももっと小さな動物か、いずれにせよ貴重なタンパク源には違いなかった。
小屋の中に置いてあったライフルを手にとり、できるだけ見通しののいい場所へと移動する 。逃げていく動物のうしろ姿。子どものシカだ。
自分の右目と指先に感覚を集中させる。慎重に狙いを定め、引き金に手をかけた。
記憶が正しければライフルの弾は残り1 発のはずだ。
私は神に祈る気持ちで引き金を引いた。
乾いた音がジャングルの中に響く。シカの足音は消え、その姿も茂みの中へと隠れ、命中しているのかどうか、はっきりとは確認できなかった。
両足に力を込めながら、シカが消えた付近に近づいていく。
ジャングルのぬかるみは私の体力を容赦なく奪っていった。
「頼むから弾が当たっていてくれ」と願いながら、重い体を引きずって一歩ずつ進んでいくが、途中で足がもつれ、私はその場にひざまずいた。
さながら神に祈る信者のごとき格好で倒れ込んだ私の目の前に、同じように倒れて動かなくなっている子どものシカが見えた。
「これでまだ生きられる」
死の恐怖から解放され、全身に希望があふれた。生きることの喜びを実感していると、いつのまにか雨があがっていた。
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