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猫を探していた。
いつからか、時折、鳴き声が聞こえていたのだ。
三の兄上の事件のあと、四の兄上は奥宮の一室に一の兄上を閉じ込めてしまわれた。
四の兄上は一の兄上と同母でいらっしゃる。
それを掲げて大事に囲い込んでしまわれては、誰にも文句はつけられない。
一の兄上のお顔を見るのには、四の兄上の許可が必要になった。
度重なる心労のために一の兄上は寝台からおりられるようにはなったものの、部屋を出歩けるほどお元気ではないらしい。
「猫……だと?」
意を決して話しかけたわたしを、四の兄上は冷ややかな目でご覧になる。
「はい。一の兄上の少しの気晴らしになるのなら、迷い込んだ猫を探し出して、お見舞いにお見せしたいのです」
そう告げて離れへの立ち入りを求めたとたんに、静かに不快感を露にして、四の兄上は刀を手に取った。
「兄上? ……兄上、どちらに行かれるのですか?」
慌ててそのあとを追うわたしを振り返りもせず、迷うことなく歩を進める。
ずんずんと進む兄の行く先に見当をつけて、わたしは小走りで追いかけた。
渡殿を走るのはいけないことだと知っていたけれど、四の兄上の様子にそれどころではないと悟ったのだ。
きっと、行く先は、一の兄上のところ。
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