あの頃

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「五の君さま、お待ちくださいませ。奥へはなにとぞ!」 「大丈夫です、四の兄上もご一緒だから」 侍従がわたしの袖を引く。 心配そうな顔に笑って見せるけれど、気は急いていた。 四の兄上に止められる前に、一の兄上のところへたどり着いてしまいたいのだ。 「五の君さま……!」 「話はあとで聞く!」 今は何より、兄上のところへ! 「兄上!」 侍従を振り切り、息を切らせて一の兄上の部屋へたどり着いたわたしを出迎えたのは、赤い液体だった。 ぴしゃりと、足元に落ちた液体を見て、わたしはため息を吐く。 「兄上」 わたしは戦場に出たことがない。 だからこれは初めての光景。 血液というのは吹き出すものなのだと、初めて知った。 ごとん。 四の兄上は一の兄上の上から、どくどくと血液を吹き出す男の身体を床へ蹴り落とした。 「何をなさっているんですか?」 「ん?」 寝台の上に半裸で座り込んで、一の兄上は不思議そうな顔をする。
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