あの頃

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「もう、いい」 「五の君?」 「わかっているから、もう言わずともいい」 きっと、この王宮には魑魅魍魎が住み着いてしまったのだ。 否。 昔から住んではいたのだろう。 ただ、息を潜めていただけで。 光はさしているはずなのに息苦しくて、皆が自分の存在をできるだけ潜めて過ごそうとしている。 父王でさえも。 仕える者どもが、陰で兄上たちの所業は畜生のようだと、ひそやかに口にする。 自分たちだとて魑魅魍魎だというのに、兄上たちが鬼畜生になってしまったと、後ろ指をさす。 本当のことは誰にも見えていないというのに。 かつて。 兄上たちはわたしの自慢の兄上たちだった。 一の兄上は博識でお優しくてわたしの師でもあった。 三の兄上は陽気な方で公平で誰にも好かれていた。 四の兄上は他の兄上たちの足りないところを補おうと、努力しておられた。 皆、素晴らしい方だったのだ。
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