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幼いころからこの部屋を欲しいと望んでおられた。
外交のために他国へ行くのは嫌だと、そういっておられた姉上。
「四の君では、もう、ないでしょう?」
「そうね、治天の君」
「我が君とは、お呼びしないのですか?」
わたしがそういうと、頬を染めて微笑む姿はお美しい。
まろやかな腹に、新たな命が収まっているのを皆が寿いだ。
ここ数年、ごたごたが続いていたのには皆、倦んでいた。
だからほとんどの者が、同父だという事実だとか四の兄上の気性だとかいった、多少の都合の悪いことには目をつむった。
四の兄上は父王が衰えきる前に手を打ち、玉座を手に入れた。
諍いのない新王の誕生に、世は喜んだ。
わたしは自分の継承権を返上し、一の兄上との安穏な生活を求めた。
表向きは『わたしと四の兄上の取引』が成立したように見えるだろう。
「さて、姉上」
「ええ、約定は違えますまい。あなたは一の兄上とともに、離宮で静かにお暮しなさい。四の兄上とこの国は、わたくしがしっかりと守りましょう」
「それを聞いて安心いたしました」
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