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あの頃、わたしは。
世界は明るくまろやかで、光に満ち溢れて優しいものだと信じていた。
わたしは五人きょうだいの末子として、ここに生を受けた。
この大陸にはいくつかの国が林立しており、その中の一つの王国の統治者がわたしの父だ。
血統に拠ってたち、統治をする者どもがそうであるように、血筋を保つために、複数の妻を持つことが許される立場の父は、慣例に従って三人の妻を持った。
正妻の北の方に、一の君、四の君。
第二夫人の東の方に、三の君。
第三夫人の西の方に、二の姫、わたし――五の君。
それぞれ固有に名を持ってはいるけれど、婚姻を結ぶまでは明かさないのが我々の決まりで、きょうだいであってもそれは変わらない。
名を明かすのは、その心身を明け渡すのと同じことなのだ。
王の子供たちは生まれた順に数字がふられ、男であれば君、女であれば姫と呼ばれる。
跡取りは生まれた順ではなく、基本的に父王が決める。
跡取りは父が決めるといっても、四人の男児のうち年長者は二人。
一の兄上か三の兄上のどちらかが継ぐことになるだろう。
もしも一の兄上がおられなくなれば、後継の行方はわからない。
三の兄上は年長だけれど、東の方のご実家はすでにその力を失っていて後ろ盾は弱い。
四の兄上は一の兄上と同じく正妻の子ではあるけれど、若くその気性を危ぶまれている。
わたしに至っては、やっと十五になったところで、長兄の一の兄上とは十も離れているうえに、未だ成人の儀も受けていない。
跡取りの候補にあがることすらできていないのだ。
あがれといわれても、断るのは間違いないけれど、未だに子ども扱いなのはいささか面白くない。
それでも。
継承権など関係のない立場故に、わたしを取り巻く世界は狭く、その場だけは明るいものだった。
その光の外側に何があるのかなど、わたしは気にしたこともなかった。
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