あの頃

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ひやりと冷たい石造りの卓の上に、書物を積み上げ、その上に頭を乗せた。 そろそろだと思っていた、わたしの成人の儀の日取りが決まって、周囲はそわそわとしている。 決まったのは先月のことで、実際の儀式は二月先。 わたし自身には何の変りもないのに、顔を合わせるたびに「おめでとうございます」と頭を下げる役人たちが煩わしい。 わたしの指導役をずっと務めてくださっていた一の兄上が、冠役となってくださるのが、今のところ、わたしの唯一の楽しみとなっている。 優しい兄上は、わたしにとって甘い教師ではないので「もちろん、するべきことはわかっているね?」と、微笑みとともにわたしに課題を置いて、ご自分の仕事を片づけに行ってしまわれた。 出された課題を図書室で調べながら片付けるのは、なかなかに骨が折れた。 我々の歴史や、宮城の作り、政治、外交、医術、それから内政に、各家の勢力。 多岐にわたる内容は一朝一夕に身につくものではない。 それでも、一の兄上からのお褒めの言葉を想像すれば、なんてことはないように思えるのだ。 「まだ、かなあ……」 小さく息をついて、目を閉じる。 今日の分だと言い渡された分は、何とか仕上げた。 一の兄上はここで待っているようにといわれたのだから、じきに戻ってこられるだろう。 宮城内といっても安全は保障されているわけではないと、侍従たちには口を酸っぱくして言われている。 行儀作法としてもあまりいいものではないのだろうけれど、でも、少しだけ。 少しのつもりで目を閉じて、思いがけずぐっと寝入っていたらしい。
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