あの頃

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本当は恥ずかしいわけではない。 ただ、わたしが嫌だったのだ。 わたしの学びは、一の兄上とわたしの二人だけのもの、と、勝手にわたしが感じているから。 三の兄上も嫌いではないけれど、わたしにとって、一の兄上が特別なのだ。 帳面を見せるのを拒んでしまったことで、なんとなく気づまりになってしまう。 どうしようかと言葉の接ぎ穂を探していたら、一の兄上が図書室に戻ってこられた。 「待たせたね」 「一の兄上」 「兄上」 まっすぐに私のもとへこられた一の兄上は、そっとわたしの頬を撫でる。 それから、三の兄上に目を向けられた。 「きていたのか、三の」 「兄上がおいでかと思いまして。思いがけず、五の寝顔を楽しめました」 さらりと笑って三の兄上がいわれて、一の兄上が眉を顰めて私に確認された。 そのお顔を見て、わたしは頭を下げてしまう。 ああ、兄上に心配をかけてしまった。 「転寝をしていたのか?」 「……申し訳ありません、ほんの少し目を休めるだけのつもりだったのですが」 「一人の時に、気を緩めるものではない」 「はい」 「少し疲れているのではないですか?」 三の兄上が助け舟を出してくださるけれど、一の兄上が心配そうにわたしのことを見つめられるので、却って申し訳なくなってしまう。 ふるふると首を横に振って、兄上に告げた。 「大丈夫です」 「本当か?」 「はい」 「嘘をつくのではないよ」 「本当です」 「そう」 わたしのあごに手をかけて上を向かせ、一の兄上はじっと目を覗きこんでこられる。 嬉しくて申し訳なくて頬が熱くなってしまうけれど、一の兄上に逆らうなど、できない。 精いっぱい嘘ではないとうったえる。
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