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先年。
父王が、隣国との小競り合いに気を取られている間に、少しばかりのごたごたが起きた。
隣国との小競り合いは長引きそうで、わたしの成人の儀は延期の話もあったけれど、密やかに執り行われた。
そんな日々の中、何者かが一の兄上に毒を盛ったのだ。
幸いにして一命はとりとめたものの、一の兄上は父王の跡目は継げない……そう言われていた中で、今度は三の兄上が一の兄上の寝室で死んだ。
見つけられたとき、兄上たちはどちらの衣服も乱れていた。
引き裂かれたような状態の衣服をかろうじて身にまとわせた一の兄上は部屋の隅で太刀を撫でていて、半裸に刀傷を受けた三の兄上は寝台の上で死んでいた。
「兄上! 兄上、大事ないですか? 一の兄上!」
抱え込んだ太刀を奪い、顔を覗き込むと兄上は不思議そうな顔をしてわたしを見つめた。
一の兄上の身についた紅が、ご自分のものではないことを確認して、息をつく。
成人の儀を受けたころからわたしの体は一気に成長をはじめ、今ではほとんどかわらなくなった大きさの兄上の体を、抱きしめる。
「だいじょうぶ」
抱きしめられたまま、兄上はわたしの耳元に囁いた。
「だいじない。お前は何の心配もいらないよ」
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