谷崎くんはうるさそうに目を細め、横で騒いでいる私を見た。怖い。でも、この手を離すもんか。
気合いが通じたのか、私の手を振りほどこうとしていた谷崎くんの力が、ふっと抜けた。
「なんで……」
「え?」
「なんでそんなに必死なんだよ……」
ぽつりと、谷崎くんがつぶやいた。私があまりにしつこいので、あきれてしまったのだろうか。
「わかったよ。行けば、いいんだろ。保健室」
投げやりに言いつつも、谷崎くんは先に立って歩き出した。
「あ、うん。ありがとう!」
「……変なやつ」
あれ? 私、何か変なことを言ったかな、よくわからない。けれど、谷崎くんの『近寄るなオーラ』が少し、やわらいだ気がして、嬉しくなった。
「真純ちゃん、あのさ……そんなに泣きそうな顔されると、やりにくいんだけど」
先生は言いにくそうに、私のほうを見て苦笑いをした。
屋上での出来事のあと、すぐに保健室で谷崎くんのけがの手当てをしてもらっていた。先生が手際よく谷崎くんの傷を処置する様子を、横で見ていたのだけれど……
「わ、私、そんな顔してた?」
「してたしてた。もう、真純ちゃんが怪我したんじゃないでしょ。そんな痛そうな顔して」
先生は呆れたように眉をハの字にして笑っている。しかし治療の手は止めないあたり、さすがプロだ。
手当てを受けている本人、谷崎くんを見ると、少しも表情を変えてはいなかった。すごすぎる。私なんて、横で見ているだけでも右手がヒリヒリするのに。
「だって……」
谷崎くんがいてくれなかったら、私がそうなっていたのだ。いや、もっとひどいけがをしていた可能性が高い。
私はあらためて、谷崎くんに頭を下げた。
「谷崎くん、ごめんね。助けてくれて、本当にありがとう」
「……別に」
ひとこと言って、そっぽを向いてしまう谷崎くん。彼のことを知らなかったら、その態度に落ち込んでいたかもしれない。
けれど、今の私は谷崎くんのことを少しだけ知っている。
こうして言葉で反応してくれたことが、じわりと私の心を温かくしてくれた。
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