第2話 きみと屋上で

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 谷崎くんはうるさそうに目を細め、横で騒いでいる私を見た。怖い。でも、この手を離すもんか。  気合いが通じたのか、私の手を振りほどこうとしていた谷崎くんの力が、ふっと抜けた。 「なんで……」 「え?」 「なんでそんなに必死なんだよ……」  ぽつりと、谷崎くんがつぶやいた。私があまりにしつこいので、あきれてしまったのだろうか。 「わかったよ。行けば、いいんだろ。保健室」  投げやりに言いつつも、谷崎くんは先に立って歩き出した。 「あ、うん。ありがとう!」 「……変なやつ」  あれ? 私、何か変なことを言ったかな、よくわからない。けれど、谷崎くんの『近寄るなオーラ』が少し、やわらいだ気がして、嬉しくなった。 「真純ちゃん、あのさ……そんなに泣きそうな顔されると、やりにくいんだけど」  先生は言いにくそうに、私のほうを見て苦笑いをした。  屋上での出来事のあと、すぐに保健室で谷崎くんのけがの手当てをしてもらっていた。先生が手際よく谷崎くんの傷を処置する様子を、横で見ていたのだけれど…… 「わ、私、そんな顔してた?」 「してたしてた。もう、真純ちゃんが怪我したんじゃないでしょ。そんな痛そうな顔して」  先生は呆れたように眉をハの字にして笑っている。しかし治療の手は止めないあたり、さすがプロだ。  手当てを受けている本人、谷崎くんを見ると、少しも表情を変えてはいなかった。すごすぎる。私なんて、横で見ているだけでも右手がヒリヒリするのに。 「だって……」  谷崎くんがいてくれなかったら、私がそうなっていたのだ。いや、もっとひどいけがをしていた可能性が高い。  私はあらためて、谷崎くんに頭を下げた。 「谷崎くん、ごめんね。助けてくれて、本当にありがとう」 「……別に」  ひとこと言って、そっぽを向いてしまう谷崎くん。彼のことを知らなかったら、その態度に落ち込んでいたかもしれない。  けれど、今の私は谷崎くんのことを少しだけ知っている。  こうして言葉で反応してくれたことが、じわりと私の心を温かくしてくれた。
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