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今日は谷崎くんについて、少し知ることができた。
笑い出すと止まらないこと。そして、私の家の近くに住んでいること。
谷崎くんの家はうちと同じ町内にあり、意外とご近所だった。知らないうちにすれ違っていたことがあるかもしれない。
放課後、学校を出た私たちは、同じ方向に帰るために自然と連れ立って歩いていた。
夕方にはまだ早い、のんびりとした空気の住宅街。心が浮き立ち足が軽くなるような、春の風が吹いていた。
歩きはじめてしばらくの間、言葉を交わすことはなかったけれど、不思議とその沈黙が心地よいと思えた。
でも、谷崎くんはどうだろう? 私はこっそりと隣の谷崎くんをうかがった。
顔を見るには頭一つ分視線を上げなければならない。谷崎くんは右手に違和感を感じるのか、時々思い出したように手を動かしてみていた。
「何」
ちらちらと見ているのがばれてしまったらしい。谷崎くんは鋭い視線を私に向けた。
私は反射的に勢いよく首を振り、言いわけを始めた。
「ううん、その、ごめん、つい谷崎くんの右手が気になっちゃって……」
「あんたのほうこそ、なんともないのかよ」
「えっ?」
「ケガ、してないのか」
「う、ううん、全然! 谷崎くんが助けてくれたから。それより、学校で何か不便なことがあったら、なんでも言ってね。私、手伝うから」
言ってから、また余計なことだったかもしれない、と思わず口を押さえた。
「あんたさ」
谷崎くんの表情がより硬くなった。私はこれから何を言われるのだろうと身構える。
「俺に話しかけたって、もう他の写真は出てこないぞ」
「え、どういうこと?」
写真、という単語がいきなり出てきたことに驚いて、私は間の抜けた口調で聞き返してしまった。
「あんたはあの写真が良くて、俺に話しかけてきたんだろう。……なら、もう用はないんじゃないか」
俺はもう、写真は撮らないから。
そんなセリフが、続いて聞こえてきたような気がした。
確かに、屋上では写真を撮らないと聞いてとても驚いた。けれど今はそれとは関係なく、谷崎くん自身と知り合っているのだ。
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