第2話 きみと屋上で

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 今日は谷崎くんについて、少し知ることができた。  笑い出すと止まらないこと。そして、私の家の近くに住んでいること。  谷崎くんの家はうちと同じ町内にあり、意外とご近所だった。知らないうちにすれ違っていたことがあるかもしれない。  放課後、学校を出た私たちは、同じ方向に帰るために自然と連れ立って歩いていた。  夕方にはまだ早い、のんびりとした空気の住宅街。心が浮き立ち足が軽くなるような、春の風が吹いていた。  歩きはじめてしばらくの間、言葉を交わすことはなかったけれど、不思議とその沈黙が心地よいと思えた。  でも、谷崎くんはどうだろう? 私はこっそりと隣の谷崎くんをうかがった。  顔を見るには頭一つ分視線を上げなければならない。谷崎くんは右手に違和感を感じるのか、時々思い出したように手を動かしてみていた。 「何」  ちらちらと見ているのがばれてしまったらしい。谷崎くんは鋭い視線を私に向けた。  私は反射的に勢いよく首を振り、言いわけを始めた。 「ううん、その、ごめん、つい谷崎くんの右手が気になっちゃって……」 「あんたのほうこそ、なんともないのかよ」 「えっ?」 「ケガ、してないのか」 「う、ううん、全然! 谷崎くんが助けてくれたから。それより、学校で何か不便なことがあったら、なんでも言ってね。私、手伝うから」  言ってから、また余計なことだったかもしれない、と思わず口を押さえた。 「あんたさ」  谷崎くんの表情がより硬くなった。私はこれから何を言われるのだろうと身構える。 「俺に話しかけたって、もう他の写真は出てこないぞ」 「え、どういうこと?」  写真、という単語がいきなり出てきたことに驚いて、私は間の抜けた口調で聞き返してしまった。 「あんたはあの写真が良くて、俺に話しかけてきたんだろう。……なら、もう用はないんじゃないか」  俺はもう、写真は撮らないから。  そんなセリフが、続いて聞こえてきたような気がした。  確かに、屋上では写真を撮らないと聞いてとても驚いた。けれど今はそれとは関係なく、谷崎くん自身と知り合っているのだ。
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