/173ページ
「用がないなんてこと、ないよ。私は谷崎くんと話してて、楽しいもん」
「は? ウソつけ、俺と話してて楽しいはずないだろ」
私の意見は谷崎くんに即、否定された。素直な気持ちを口に出したのに、全く信用されていない。
「いやいや、さっきの笑い転げている谷崎くんは、かなり楽しかったよ」
言いながら私は、顔を赤くして笑っていた谷崎くんの姿を思い浮かべる。うん、本当に楽しい。
「あ、あれは、あんたが面白い格好してたからだろ」
赤い顔のまま、谷崎くんは反論してきた。面白い格好と言われると、途端に恥ずかしさがよみがえる。何せ今も、スカートに大穴を開けたまま歩いているのだ。
「え、もしかして、スカートの中、見た?」
「なっ……見てるわけないだろ、そんなもん」
「私のおしりを『そんなもん』って言うのはちょっと、ひどいと思う……」
谷崎くんの言葉を受けて言ったことだったけれど、なぜかこれも彼のツボにはまってしまったらしい。
彼は再び肩を震わせ、懸命に自分の中の笑いと戦っていた。どうやら今回も負けてしまったようだ。
そんな谷崎くんを見て、私は少しだけ安心した。
先ほどの話の流れだと、『もう近寄るな』と言われそうだったから。でも少なくとも私は、これからも谷崎くんと話をしたいと思っていた。
一瞬、あたりが暗くなった。
私たちは自然と空を見上げる。太陽にじゃれるように雲が寄り添って、光を遮っていた。
しばらく眺めていると、雲は太陽と遊ぶのに飽きたのか、ゆっくりと遠ざかっていく。雲の隙間から太陽が少しずつ姿を見せ、幾筋もの光を投げかけていた。
「きれいだね……」
私は思わずつぶやいた。そしてしばらくしてから気づく。谷崎くんの写真も空を映していた。もしかして、空の話をしてほしくなかったかもしれない。
「――そうだな」
自分の言葉に後悔しかかっていたとき、隣から声が聞こえてきた。ハッとして彼をみる。谷崎くんは、おだやかな表情で空を見つめていた。
廊下でも屋上でも、谷崎くんは空を眺めていたような気がする。もともと空が好きなのかもしれない。私はほっとして再び空に目を移した。
空を見てきれいだと思う。そんな素直な気持ちを谷崎くんと共有できたことが、とても嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!