第2話 きみと屋上で

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「用がないなんてこと、ないよ。私は谷崎くんと話してて、楽しいもん」 「は? ウソつけ、俺と話してて楽しいはずないだろ」  私の意見は谷崎くんに即、否定された。素直な気持ちを口に出したのに、全く信用されていない。 「いやいや、さっきの笑い転げている谷崎くんは、かなり楽しかったよ」  言いながら私は、顔を赤くして笑っていた谷崎くんの姿を思い浮かべる。うん、本当に楽しい。 「あ、あれは、あんたが面白い格好してたからだろ」  赤い顔のまま、谷崎くんは反論してきた。面白い格好と言われると、途端に恥ずかしさがよみがえる。何せ今も、スカートに大穴を開けたまま歩いているのだ。 「え、もしかして、スカートの中、見た?」 「なっ……見てるわけないだろ、そんなもん」 「私のおしりを『そんなもん』って言うのはちょっと、ひどいと思う……」  谷崎くんの言葉を受けて言ったことだったけれど、なぜかこれも彼のツボにはまってしまったらしい。  彼は再び肩を震わせ、懸命に自分の中の笑いと戦っていた。どうやら今回も負けてしまったようだ。  そんな谷崎くんを見て、私は少しだけ安心した。  先ほどの話の流れだと、『もう近寄るな』と言われそうだったから。でも少なくとも私は、これからも谷崎くんと話をしたいと思っていた。  一瞬、あたりが暗くなった。  私たちは自然と空を見上げる。太陽にじゃれるように雲が寄り添って、光を遮っていた。  しばらく眺めていると、雲は太陽と遊ぶのに飽きたのか、ゆっくりと遠ざかっていく。雲の隙間から太陽が少しずつ姿を見せ、幾筋もの光を投げかけていた。 「きれいだね……」  私は思わずつぶやいた。そしてしばらくしてから気づく。谷崎くんの写真も空を映していた。もしかして、空の話をしてほしくなかったかもしれない。 「――そうだな」  自分の言葉に後悔しかかっていたとき、隣から声が聞こえてきた。ハッとして彼をみる。谷崎くんは、おだやかな表情で空を見つめていた。  廊下でも屋上でも、谷崎くんは空を眺めていたような気がする。もともと空が好きなのかもしれない。私はほっとして再び空に目を移した。  空を見てきれいだと思う。そんな素直な気持ちを谷崎くんと共有できたことが、とても嬉しかった。
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