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「もう、昨日は急にいなくなるんだもん。心配したんだよ」
朝、校門前で会ったリオは、私の肩に両手をのせて長いため息をついた。
何も言わず午後の授業を休んでしまったのだから、心配するのも無理はない。私はリオに謝り、昨日のことを説明した。
「へえ、谷崎って子、いいところあるんだね」
「うん。おかげで無事だったんだよ……スカートは、残念なことになっちゃったけど」
スカート事件はリオにも受けが良かった。笑っちゃいけないけど、と前置きをしつつも、リオは遠慮なく大笑いをしていた。
「あれ、真純、それって体操服? 体育の授業出るの?」
笑い終わったリオは、私の肩で揺れているサブバッグを見て、目を丸くした。
「うん、今日は頑張ってみるつもり」
「でも、百メートル走って聞いたよ。やっぱり心配だなあ」
「ずっと走ってるってわけじゃないし、大丈夫だって!」
私はリオを安心させようと、力を込めて言った。
もしかすると、ポケットの写真(のコピー)が効いているのかもしれない。
自分でも驚くほど、体も気分も軽く感じられる。このままどこまでも走れそうな気さえしていた。
部室に寄っていくからと言うリオと途中で別れ、私は自分のクラスへと向かう。
教室に入る前、ふと谷崎くんのことが頭に浮かんだ。
空を見ていたときの谷崎くんの表情は、とても優しかった。もう一度、あんな顔が見たいな……そう思いながら戸を開ける。
と、そこには本物の谷崎くんがいた。今日は遅刻組ではなかったのだ。
同じクラスなのだから教室にいて当たり前なのに、彼を見た瞬間、胸が大きく跳ねたのはどうしてだろう?
私は少しぎこちない動きのまま周りの人にあいさつをし、自分の席にたどりついた。
そして、谷崎くんのほうをもう一度見る。やっぱり窓際で、空を眺めていた。昨日の帰りのときと同じだ。
けれど、昨日のようなおだやかな表情はなかった。
雲ひとつない空を見ているのに、谷崎くんの表情は曇ったままだ。初めて声をかけたときのように、眉を寄せて、何か考え込んでいるように見える。
私は鞄を置くと、谷崎くんのもとに向かった。もう声をかけるのにためらうことはなかった。
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