第3話 きみと桜の下で

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 心の準備ができていなかった私は、飛び出すのがワンテンポ遅れてしまった。  すでに布野さんとはかなりの距離があいてしまっている。必死でついて行こうとしても、足が上手く上がってくれない。  けれど、息を胸いっぱいに吸い込むと、青空が体中に染み込んでくるように思えて、とても気持ちが良かった。  私はもう何も気にすることなく、自分のペースで足を動かし続けた。  走り終え、座って息を整えている私の隣に、リオがやって来て言葉をかけてくれた。 「真純、やったじゃん! 走れて、良かったね」 「うん、気持ち良かったよ。空と一つになったみたいだった」 「えー、なにそれ、かっこよすぎ」 「足が遅くても、言うことだけは立派ですとも」  私たちは、顔を見合せて笑った。笑い声は高く、高く、空に吸い込まれていくようだった。  そのとき、私はすっかり浮かれてしまっていた。自分の体調の変化に全く気づいてなかったのだ。  全員のタイムを計り終わり、先生が私たちに集合するよう号令をかけたときのことだ。 「先生呼んでるね、行かなきゃ」 「うん、そうだね」  リオに続いて立ち上がろうとしたとき、目の前が真っ白になった。さらに頭がきりきりと痛みだし、足下が揺れる。  しまった、急に立ち上がったからだ。そう思ったときにはもう自分を支えられなくなり、私はその場にしゃがみ込んでしまった。 「真純!」 「どうしたの? 原田さん」  リオや先生、みんなが駆け寄ってきてくれている。  私はみんなに、心配ない、大丈夫と言いたかったけれど、息を吸うだけで頭に響いてしまい、思うように声が出せなかった。 「そう、それで三月に入院して、検査をしたのね」  私を保健室に連れてきてくれた体育の先生は、私の具合が落ち着いたころ、再び様子を見に来てくれた。 「はい……でも、大変な病気は見つからなかったんです。ただ、貧血になりやすいらしくて」  言い訳のようにぼそぼそと答えると、先生は困ったような笑顔を浮かべた。 「やっぱりもうしばらく、体育をお休みしたほうがいいんじゃないかな」 「でも」 「貧血だって、病気でしょう。しっかり体調を整えて、心配がなくなってから運動しても遅くないでしょ?」 「……」  本当に心配そうな先生の表情を見ると、私は何も言えなくなってしまった。
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