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「どうか、したのか?」
「う……ううん。な、なんでも、ない……」
谷崎くんの問いかけに、私は首を大きく振った。しゃくりあげながら言っても全然説得力がないな、と思いながら。
「……そうか」
けれど、谷崎くんは私の言い分を否定することはなかった。
そのかわり、黙って階段をもう数段上がり、私の隣に腰かけた。
私はもう一度びっくりした。谷崎くんのほうから近づいてきてくれるなんて、本当に意外なことだった。
不思議なことに、谷崎くんが隣にいてくれると、とても安心できる気がした。抑えようとしていた涙が再びあふれ出てきて、肩を震わせて泣きじゃくった。
谷崎くんは、私が泣いている間、何も言わずそばにいてくれた。
それから、何分経っただろう。頬の涙も乾き、気持ちが落ち着いてきたころ、谷崎くんがつぶやいた。
「桜……」
「えっ?」
まさか谷崎くんから話をしてくれるとは思っていなかったので、派手に驚いた声を出してしまった。けれど谷崎くんは気にしてはいないみたいで、前を向いたまま、話を続ける。
「桜、見に行くか?」
そういえば、朝に桜の話、してたっけ。私はホームルーム前の、谷崎くんとの会話を思い出した。
「桜って、まだ学校で咲いてるっていう桜のこと?」
「そうだ」
谷崎くんはうなずく。
「行く。行きたい」
青空の中に舞っているピンクの花びらを思い浮かべ、私はすぐに返事をした。
「じゃあ」
谷崎くんは立ち上がると、私の手を引いた。そのまま立たせてくれる。動きが素早すぎて、一瞬何がどうなったのかわからなかった。
「び、びっくりした」
思わず声を漏らす私に、谷崎くんはなぜか得意げに見える表情を浮かべた。
「おあいこだ。あんただって、俺の手、かなり強引に引っ張ってただろ」
「お、おあいこ?」
谷崎くんが口に出すには妙にかわいらしい言い方のような気がして、思わず聞き返してしまう。
「なんだよ」
私の言葉に含むものを感じたのか、谷崎くんは唇を尖らせた。私は笑わずにはいられなかった。
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