第3話 きみと桜の下で

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「売店なら、まだパンくらい残ってるんじゃないか」 「え?」 「早くしろよ。昼休み、終わっちまうぞ」  返事をする前に、谷崎くんはさっさと歩き出していた。私はあわてて彼のあとを追う。  もしかして、売店までついてきてくれるのだろうか。 「あ、でも、お金持ってないや」 「貸してやるよ、それくらい」 「ありがとう……」  今日の谷崎くんは、なんだか優しい。初めて会ったときとはあまりに違う彼に、私は少し戸惑った。どうしたんだろう。  もしかして、こっちの優しい谷崎くんが本当の姿なのかもしれない。写真のことを除けば、普段は優しくて、よく笑う人なのかもしれない。  私は、最後にもう一度振り返って桜の木を見た。  ここを離れるのが少し名残惜しい。桜は私たちがいてもいなくても、変わらず青空の下でやわらかな花を咲かせている。  谷崎くんと似ている、と私は思った。普段は誰も知らないけれど、温かな気持ちが見えにくいところに隠されている。  てのひらを見ると、さっき受け止めた花びらがまだそこにあった。  私は花びらをそっとポケットに入れてから、谷崎くんの背中を追いかけた。
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